ある日午後、ソファに座り、母と私がティータイムを楽しんでいました。

学校での出来事や何気ない日常のことを話していると、突然に猫がアップライトのピアノの天屋根まで駆け上がったのです。

そして、私たちの方を見ながら「ニャー」と鳴き、偶然にピアノの上に置いてあった100円ライターを前足で払い、鍵盤蓋の上に落としたのです。

当時、音大への進学も考えていた私にとって、ピアノは宝物。

日々ほこりを払い、年に数度、ピアノポリッシュで磨くほど大切に扱っていました。

そのピアノに鋭い爪を立ててジャンプして登り、物を落とすなんて、いくら可愛いがっている猫でも許される行為ではありません。

「コラーッ！」と大声で叫んでしまいました。

すると、猫は慌てて飛び降り、どこかへ隠れてしまいました。

参考動画：物を落とすのが好きなＰＯＰ

猫が高いところが大好き。

そして、そこから物を落とすのは、猫の本能と言ってもいいようです。

猫は好奇心がとても旺盛な動物。

特に子猫であれば、人間の子どもと同じです。

高いところから物がどんなふうに落ちていくのか、その時にどんな音がするのかに興味津々なのです。

だから、わざと自分で物を落としてみる。

それは、体験的に新しい何かを学ぶプロセスということなのです。

また、狩猟動物である猫は、常に刺激を求めているのです。

しかし、平穏に安全に暮らす家猫にとっては、その本能の行き場がありません。

そこで、上から物を落として、ストレスを発散しているというわけです。

しかし、物を落として、飼い主が大切にしているピアノに傷をつけたという私のケースは、上記の2つとは異なる理由のようです。

それは、「かまってほしい」というアピールです。

床に新聞を広げて読んでいると、猫がその上に乗って動いてくれないという経験をお持ちの飼主さんも多いと思います。

昨今では、パソコンでネットサーフィンに夢中になっていたときに、猫がキーボードの上に乗り、謎の文字入力の被害に遭っています。

それと同じで、猫が他ごとをしている飼い主の気をひこうとする行動なのです。

母と私が仲良く会話をしている様子に、猫はきっと疎外感を持ったに違いありません。

私たちの気をひこうと、ピアノの上から100円ライターを落としたのは、「遊んでー」「かまってー」という、言葉が話せない猫なりの必死のメッセージだったのです。

決して、イタズラとか嫌がらせとかではないのです。

ただ、私たちに甘えたかっただけなのに、「コラーッ」と怒鳴ってしまったことを、いまではすごく反省しています。

現在は、当時の猫ではなく、2代目の猫を飼っています。

今の猫は物こそは落としませんが、かまってほしいときに、わざと階段を駆け上り、2階の部屋から大きな声で鳴き続けます。

そんなときには、他ごとをしていてもいったん手を止めて、私も2階に上がっていき、「どうしてそんなに鳴くのかな〜？ママはここにいるよ〜」と言いながら、撫でて上げることを心掛けています。

私たち人間は、家庭だけでなく、学校や会社、趣味の集まりなど、たくさんの人との関わりを持っています。

しかし、家猫の社会は、私たち家族だけ。

だからこそ、「かまってほしい」という猫のしぐさには、きっちりと応えてあげたいと思います。

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